ストレスチェックは、労働安全衛生法によって、従業員数50名以上の事業場で年に1度以上の実施が義務づけられています。その結果に基づく面接指導の実施等を内容としたストレスチェック制度も、同様に労働安全衛生法で定められています。
ストレスチェック制度の本来の目的をよくわかっていないまま、義務なのでとりあえず実施している、という企業も少なくありません。そのような企業では、従業員も受検することを無意味に感じてしまい、制度が形骸化してしまいます。
新型コロナウイルス感染症の影響で、働き方や働く環境が大きく変わった方も多い中、ストレスチェックの重要性はさらに増してきています。この機会に、ストレスチェック制度が目的としているのはどのようなことなのかを知り、有効に制度を活用していくポイントを理解していきましょう。
企業の義務「ストレスチェック」とは?
ストレスチェックは、労働者のストレスの程度を把握し、労働者自身のストレスへの気付きを促すことともに、結果をもとに集団分析を行い、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることが大きな目的となっています。ストレスチェック制度を活用して職場改善を行うことは、生産性の向上にもつながっていきます。
メンタルヘルスの予防3ステップ
メンタルヘルス不調の予防は、段階によって3つにわけることができ、「メンタルヘルスを未然防止する」一次予防、「メンタルヘルス不調者を早期発見し対応する」二次予防、「メンタルヘルス不調によって休職した従業員に対して、職場復帰支援等を行う」三次予防がその内訳です。
ストレスチェックの主な目的は、その一次予防にあたる、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止です。
ストレスチェックの目的を「企業が従業員のストレスの状況を知るため」だと捉えていると、検査をやりっぱなし、医師面談も実施しっぱなしになり、職場改善までつなげることができず、ストレスチェック制度は形骸化してしまいます。状況を把握したあと、環境づくりに努めることで初めて、ストレスチェック制度は意味をもつのです。
「結果が知られる?」「評価に関わる?」ストレスチェックが浸透しない理由
ストレスチェックを実施することは企業側の義務ですが、従業員には受検するかどうか選択する権利があり、受検しないことも可能です。ですが、ストレスチェック制度を活用するためには、もちろんより多くの従業員に受検してもらいたいところです。
なかなか受検が進まない場合の原因の一つとして、従業員の方が、「結果を上司に知られてしまうのではないか」「人事評価に関わってくるのではないか」という不安を抱いていることが挙げられます。ですが、ストレスチェック制度はその点についてきちんと配慮がされています。
ストレスチェックの個人結果は、ストレスチェックを受けた当人のほか、「ストレスチェック実施者」、「実施事務従事者」のみが閲覧できます。10人以上の集団を単位とした結果は、企業も知ることができます。
ストレスチェックの実施者は医師・保健師・厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士、産業医等の専門機関などから選んで依頼します。(外部機関への委託をすることもできます。)
実施事務従事者は、人事評価に関する権限を持つ者には担当できないという規定があり、人事部・総務部の中で人事権の無い従業員が担当することが多いです。受検しないという選択をする人が多くなったり、本音ではない回答をしたりすることがないようにするための仕組みになっています。
コロナ禍でのストレスチェックの重要性
新型コロナウイルス感染症によって、私たちの暮らしは大きく変化しました。楽しみにしていたことを自粛せねばならなくなったり、感染を恐れながらも交通機関を利用し出社しなければならなかったりすることで、様々な不安・ストレスを感じながらの生活を強いられています。
先述したとおり、企業に義務付けられているストレスチェック制度は、職場における従業員のストレス状況を知って、職場改善を行うためのものですが、新型コロナウイルス感染症からくるストレスに対してのケアについても、重要な意味を持つ制度となります。
コロナ対策のために、リモートワーク制度を整えるなど、コロナ禍で働く環境や働き方が変化した従業員の方は多くいます。コロナ前に行ったストレスチェックのデータとコロナ禍でのデータを比較することで、全体的なストレス値の変化や、どの部署・職種に高ストレス者が増えているかなどを把握できます。そしてそこから、データの変化の原因が新型コロナに伴うものか判断し、具体的な改善策へ落とし込む手掛かりになります。
ストレスチェックを形骸化させないための施策
今まで述べてきたように、ストレスチェック制度は、適切に実施することで、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止するとともに、職場改善から生産性の向上にもつながる大切な制度です。義務だからやっておこう…とやりっぱなしになっていては勿体ありません。では、ストレスチェック制度を形骸化させず、有効に用いるために企業が行うべきこととは何なのでしょうか?
方針を周知する
ストレスチェックは何を目的として行われているのか、実施することでどのような効果があるのかについて、企業側がきちんと理解した上で従業員に周知します。さらに、ストレスチェックの結果を見て、きちんと環境改善につなげる意志があるということを伝えれば、受検することに対して不安を抱く従業員にも正しく情報が伝わり、受検してもらいやすくなります。
集団分析を元に改善を図る
ストレスチェックの個人結果は、受検した本人の許可が無ければ企業は確認できませんが、10人以上の集団ごとであれば結果を見ることができます。そのデータから集団分析を行えば、高ストレス者が多い部署等が見えてくるので、優先順位をつけて、適切な順番で環境改善を行っていくことができます。また、複数回の結果を比較することで、以前より負荷がかかっている集団に気付くことができ、改善に動きやすくなります。
定期的・継続的に実施する
従業員が50人以上いる企業で義務化されているストレスチェックですが、法定(年に一度)よりも短いスパンで、継続的に実施することで、より詳細な集団分析を行うためのデータが蓄積できます。過去のデータと比較することでより課題を発見しやすくなりますし、スムーズに改善へ動き出すことが可能になります。
また、ストレスチェック実施の際に用いる質問票は、厚生労働省が推奨しているもの以外でもよく、企業独自の質問を追加したもの等でも法定義務を満たすとされています。エンゲージメントについての質問や、新型コロナに関連する質問をプラスすることで、より企業ごとに適したストレスチェックを行うことができます。
法定のストレスチェックに加えてエンゲージメントを図るサーベイを実施しているかどうかは、従業員の働きがいに関わるということで、弊財団が運用している「ホワイト企業認定」の審査の中でも重要な項目となっています。
▽「ホワイト企業認定」「従業員エンゲージメント」については、以下の記事もご参考ください。▽
コロナ禍において世界の人々の思考と行動に加え、働く環境も変わりました。その変化にはデジタルツールを活用した場面が増えています。これからのウィズコロナ、アフターコロナ時代の採用活動においては、デジタルを活用した採用PRを強化させなくては優秀な[…]
2000年以降、欧米企業で定着したエンゲージメントの概念は日本にも広がりはじめましたが、終身雇用の文化が色濃い当時の日本では、エンゲージメントの高低にかかわらず1社に勤めあげることが美徳とされてなかなか定着しませんでした。 しかし近年[…]
まとめ
ストレスチェック制度は、義務化されている理由・目的を理解して活用することで、企業にとっても従業員にとっても非常に良くはたらく制度です。新型コロナなどで不安が大きい今こそ、ストレスチェックの運用を見直し、職場改善に役立てていきましょう。
自社の課題が見える「ホワイト企業認定」
弊財団が運営しているホワイト企業認定は、企業のホワイト化を総合的に評価する国内唯一の認定制度です。
日本企業の制度や取り組みを調査し、ホワイト企業としてバランスよく取り組むべき7つの項目を基準化。

(ビジネスモデル/生産性、ワーク・ライフバランス、健康経営、人材育成/働きがい、ダイバーシティ&インクルージョン、リスクマネジメント、労働法遵守)
上記の7項目を各10問、合計70設問で取り組み実施有無を確認し、5段階評価で認定を付与しています。また、7項目70設問の認定審査を受けていただくと、自社の制度・取り組みが可視化でき、人事・労務など企業ご担当者の物差しになるよう基準を作りました。
自社PRに加え第三者組織からの認定を活用しレコメンド効果を得て、採用活動や企業広報にお役立てください。